労働法ポイント解説
労働基準法について
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労働基準監督署
社会保険・労働保険 |
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1.試用期間の法的な意義
試用期間に関しては、「試用期間を設けなければならない」とか、「試用期間は●ヶ月でなければならない、という条文は労働基準法始め、他の法律にもありません。
しかし、関連する条文(抜粋)としては、以下のものがあります。
(解雇予告)
【労働基準法 第21条】
解雇予告、解雇予告手当に関しては試みの使用期間中の労働者には適用しない。ただし、試用期間が14日を超えて引き続き使用されるに至った場合においては、この限りでない。
通常労働者を解雇する際には30日前に予告するか、予告に代えて30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません(労働基準法 第20条)。
しかし、入社して14日以内の試用期間中の労働者に関しては、それが必要なしという特例が認められています。 ただし、これは試用期間は14日以内であるべきと規定したものではありません。
(公序良俗違反)
【民法 第90条】
公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。
これは、民法上の規定です。
試用期間が余りにも長すぎる場合は、民法上の公序良俗違反に問われる可能性がありますし、この条文が適用された判例もあります。
2.試用期間の長さについて
では、最適な試用期間や、上記の「公序良俗」に反する期間とはどのようなものでしょうか。
一般的には、2ヶ月~4ヶ月程度の試用期間が標準的な試用期間とされています。
14日では余りにも短く労働者の適性の見極めが困難と思われますし、1年では余りに長過ぎ労働者から見た場合、1年という長期間、身分が安定しないことになります。
試用期間の長さで争われた判例としては、「ブラザー工業事件」等があります。
【ブラザー工業事件】 名古屋地裁 昭和59年
ブラザー工業は当時、入社後6ヶ月を見習い社員期間、その後さらに6ヶ月~12ヶ月の試用期間を設けていました。この事件では、裁判所として試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるものであり、見習社員の期間の上に更に試用期間を設け、結果1年以上労働者は安定した立場にはならないという趣旨で会社側が敗訴となりました。
国家公務員の試用期間は6ヶ月とされているようです。 試用期間の目処としては6ヶ月以内程度で設けるのが適切かと思われます。
3.試用期間中の解雇、終了時の本採用拒否について
社員を採用したものの、試用期間中に解雇、または試用期間終了後の本採用を拒否したい社員が出てしまった場合、どのような判断基準を持てばいいのでしょうか。
ポイントは以下の2つです。
・試用期間と言えども労働契約は既に成立している。 しかし、その労働契約は試用期間中の「特別な事情」があれば、使用者が解約権を行使できるものとして解釈される。
・特別な事情とは、会社がその労働者の入社前に知ることが出来ない事実を、試用期間中の勤務状態等で認識し、その者を引き続き雇用することが適切でないと判断することに合理性がある場合のことであり、その場合に限り解雇は可能となる。
これは過去の判例から確立された理論です。
これでは通常の解雇と同じと思われる方多いと思います。事実、安易に解雇が出来ないことは同じですが、裁判所は、試用期間中の解雇に関しては本採用後の解雇より広い裁量権を認めているのも事実です。
試用期間中の解雇を検討する例としては以下のような5つのケースがあるかと思われます。
①履歴書等に重大な経歴詐称や隠蔽が発覚
試用期間中に、本人の履歴に重大な虚偽の事実があった(若しくは重大な履歴が故意に記載されていなかった)ことが発覚した場合が該当します。
②能力の大幅な不足
入社前に期待していた能力が入社後には全く発揮されず、担当業務をいくつか変えても勤務成績が上がらない場合が該当します。
③勤務態度の不良
入社後の勤務態度が極めて悪く、協調性もなく、周囲の業務にも悪い影響を与える場合が該当します。
④勤怠不良
入社後、正当な理由がないにもかかわらず、遅刻・欠勤等を繰り返す場合が該当します。
⑤健康不良
入社後体調を崩し、欠勤を繰り返す場合が該当します。特に、試用期間中にうつ病を始めとするメンタル不調を来たすケースが多い様です。
①の経歴詐称や隠蔽に関して、以下の注目すべき判例があります。
【三菱樹脂事件】 昭和48年東京高裁
新入社員が試用期間終了直前に、会社側から本採用拒否の告知を受けた事件です。
この労働者は、大学在学中の大半を学生運動で過ごしていたにも係わらず、それを履歴書に記載せず面接においても隠蔽したことが詐称に該当するとして本採用を拒否されした。
労働者は労働契約に基づき、労働者としての権利の確認と賃金の支払いを求めるという運びになりました。結果として、この事件は労働者側の敗訴となり、解雇は有効とされた事件です。
ここで注目すべき点は、在学中に学生運動をしていたことと、会社での業務成績には直接関係は無い事です。従って、試用期間が終了した以降に、この事実が発覚して会社が解雇を申し入れたとしても、それは合理的な理由による解雇ではないので無効になる可能性が極めて高いのですが、試用期間であったことで、裁判所も「通常の解雇よりも広い範囲での解雇を認める」という趣旨で本採用拒否を有効とした例になります。
4.試用期間の延長について
試用期間の終了間際になって、ある社員に関して本採用を行なうか、本採用を拒否するか迷う場合もあるかも知れません。
例えば、期待していた能力が全く発揮されず、ミスも多く基本的には以降の業務には耐えられそうもないが、別の業務をさせて見て少し様子を見たい場合、或いは病気で欠勤が多いが回復の可能性もあるので少し様子を見たい場合等が上げられます。
試用期間を延長する場合には以下の2点に注意して下さい。
①試用期間を延長する可能性がある場合には、就業規則にその旨を記載しておく。
②試用期間を延長する場合には、文書で本人の同意を得る。
試用期間を延長するということは、労働者にとっては安定した地位になるタイミングが遅れる、ということになります。
従って、まずは事前に就業規則にてその旨を記載しておき、いざ該当する社員が出た場合にはその社員と試用期間をいつまで延長するのか、等を記載した同意書を作成し記名押印で同意してもらうようにします。
口頭だけで試用期間を延長することは後々トラブルの元になります。
特に、新卒で入社した社員は初めて社会に出て環境も変わり、メンタル面での疾病(うつ病等)にかかるケースもあります。
短期間で回復する可能性もあるので、1~2ヶ月の範囲内で試用期間を延長するのも選択の一つです。
5.まとめ
試用期間に関しての大きなポイントは以下の2つです。
・試用期間中も労働契約は成立しているので安易に解雇は出来ない(前提)。
・しかし、特別な事情や合理的な理由が生じれば、本採用した後に比べて解雇はしやすい。
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